改めて役との向き合い方を学んだ

 尊敬してやまない坂東玉三郎から直々に稽古を付けてもらい、役との向き合い方を改めて学んだ。ボイストレーニングの本を買い、ひとりで声の出し方を研究した。

「このときにコツコツ積み上げたことが、今、すごく活きていると感じます。2020年に中止になって悔しい思いをした役を2年後にやらせていただくことができたのも、2025年を初の座頭と、初主演映画でスタートできるのも、すべてあのときの努力が実を結んだのだと思っています」

 コロナ禍は、俳優としての自分を見直す期間でもあり、兄弟の絆を深めた期間でもあったという。

「ぼくがまだ、果てしなく落ち込んでいたとき、弟の福之助が“にぃに、ゲームやろうよ”って言ってくれて、ぼくと弟、友だち2人と4人でオンラインゲームをやったんです。ぼくたち3兄弟はふだんからすごく仲がいいんですけど、おとなになると一緒に遊ぶなんて機会はそうそうないので、子ども時代に戻ったみたいで楽しかったですね」

 仲がいい兄弟も、歌舞伎俳優としてはライバル。そして、中村芝翫は父親でもあり、尊敬する大先輩である。

「子どものころは、家でも楽屋でも普通の親子という距離感だったんですけど、中学生になったとき、母から“楽屋でお父さんに話すときは、お弟子さんもいらっしゃるのだから、きちんとしなさい”と言われたんです。最初は楽屋と家を使い分けていたんですが、思春期ということもあり、どこまで子どもの自分を出していいのかわからなくなってきて……」

 しかも、歌舞伎の舞台に出るようになると、父と息子の時間より、先輩後輩でいる時間の方が長くなり、いつしか父は尊敬する先輩、追いつきたい目標となった。

「ぼくと父とでは、役者として持っている色が違うので単純に比較はできないと思いますが、父がぼくと同じ年齢の時にやっていたことを、いまのぼくができるだろうか……と考えたとき、“できます”と自信を持って答えることは、まだ難しい。少しでも近づけるよう、精進している真っ最中です」

(つづく)

中村橋之助(なかむら はしのすけ)
1995年12月26日、東京都生まれ。2000年9月、歌舞伎座で初代中村国生を名乗って初舞台を踏み、2016年10−11月歌舞伎『一谷嫩軍記』で4代目中村橋之助を襲名。2009年1月に国立劇場特別賞、2015年3月に国立劇場奨励賞を受賞。歌舞伎舞台のほか、『オイディプスREXXX』(2018年)『ポーの一族』(2021年)『サンソン−ルイ16世の首を刎ねた男−』などのミュージカルにも出演。『2019年に『ノーサイド・ゲーム』で襲名後初のテレビドラマ出演。2025年1月10日公開『シンペイ~歌こそすべて』で映画初出演にして初主演。

【作品情報】
『シンペイ~歌こそすべて』
2025年1月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
監督:神山征二郎
出演:中村橋之助/志田未来/渡辺大 染谷俊之 三浦貴大
中越典子 吉本実憂 高橋由美子/酒井美紀  真由子  土屋貴子
辰巳琢郎(「たく」は旧字) 尾美としのり 川﨑麻世/林与一/緒形直人
ナレーション:岸本加世子
配給:シネメディア
Ⓒ「シンペイ」製作委員会2024
公式サイト https://shinpei-movie.com