「検事が望む自白をしてもいいんじゃないか…」

“今後は、あなたを囚人として扱います”
 この日から200日以上の拘置所生活が続きました。
 本来、日本の刑事裁判では、判決で有罪が確定するまでは、罪を犯してはいない人として扱う『無罪推定の原則』があります。ところが、看守は明らかに僕らを犯罪者として扱うわけです。
 被疑者が入れられるのは広さ3畳の独居房。しかも、看守は名前ではなく、番号で呼びます(2024年4月から番号ではなく、名前で呼ばれるようになった)。こうして徐々に人間の尊厳を奪っていくのが『人質司法』です。
 連日の長くて厳しい取り調べで、検事が望む自白をしてもいいんじゃないかという、心の叫びを聞いたことは何度もありました。なんとか虚偽の自白をせずに踏みとどまれたのは、一歩どころか半歩の差だったと思います。
 半歩を踏みとどまらせた心の中の最後の砦は、自分が守り育てた会社への思いです。KADOKAWAの名誉を回復するとともに、ここで仕事をし、これからの時代を担っていく人たちが誇りを抱けるような会社にしなければならない。その使命感でした」

 心臓に持病のある角川氏は拘置所内で何度も体調を崩して倒れ、車椅子の使用を余儀なくされた。一時は慶應病院に検査入院し、一過性意識消失、肺炎、薬剤性肝炎と診断されたこともあった。それでも保釈請求は認められず、再三にわたって却下された。「証拠隠滅や逃亡の恐れがある」というのが裁判所側の理由だった。