居心地の悪さを感じていたが辞めたいとは思わなかった
皮肉な話だが、苦労した時期がないことに苦労した。
「実際、俳優になってから食えなかったことってないんです。つまり当時の僕にとってのウィークは“食えなかった時期がない”ということでした。僕らの業界は、“あの頃はさ、売れなったよね、三畳一間に住んでいて”とか、俳優仲間や先輩方集まって飲みに行ったら、そんな話になることがあります。自分の境遇からしたら、その輪には入れないし、“へぇ~そうなんですか”なんて言おうものなら、“お前には判らないよな”って言われてしまうから、もう何も言えなくなる。だから芸能界という世界においては非常に居づらかったですね」
そんな芸能界に居心地の悪さを感じていたという石黒さんだが、俳優を辞めたいとは思わなかった。
「その人たちの話が面白いから“俺、帰ります”という気にもならなくて。だからそこに居続けるんですけど、彼らは“なんでこいつまでも居るのかな”って思ったかもしれないですね。そのうち、段々と大きな役を演らせてもらえるようになってくると、そんなこと言っていた人たちも言わなくなってきて。もちろん、その後の人生においては色々と苦労はしましたよ。ただ、僕の気持ちとしては苦労自慢はしたくないという思いがあります」
石黒さん自身、プライベートでは3児の父である。
「二人の息子たちにはよく言っているんです。“自分の好きなことを生業に出来るほど幸せな人生はないぞ”って。僕はひょんなことで始めて、それが面白くなってきた。そして、面白くなってくれば苦労にはならないし、何を言われたって糧になる。努力は必ずしも報われるものではないけど、きっと誰かが見てくれていると思っているんです」
誰かが見てくれている──そう思えるのは、石黒さん自身が20代の後半に出会った監督からのひと言がきっかけとなったのだった。
(つづく)
石黒賢(いしぐろ・けん)
1966年1月31日、東京都生まれ。A型。T178㎝。1983年、テレビドラマ『青が散る』(TBS系)で主演デビュー。以降、『振り返れば奴がいる』、『ショムニ』シリーズ(フジテレビ系)、『ネメシス』(日本テレビ系)、『アイシー~瞬間記憶捜査官・柊班~』(フジテレビ系)などのテレビドラマや『めぞん一刻』、『ホワイトアウト』、『マスカレード・ナイト』、『20歳のソウル』などの映画に出演。またウィンブルドンテニスのスペシャルナビゲーターや絵本『Scary』の翻訳など幅広く活躍。
【作品情報】
舞台『反乱のボヤージュ』
原作: 野沢尚
脚本・演出: 鴻上尚史
出演: 石黒賢、岡本圭人ほか
6月1日(日)初日~8日(日)千穐楽 @大阪・松竹座にて公演
公式サイト: https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202506_shochikuza/