スタッフから聞くエピソードを通して、より色濃く父・佐田啓二を感じていた
──人間としての、小津安二郎。それは、中井が映画の世界に入ったとき、さまざまな人から、同じく“人間としての佐田啓二のエピソードを聞いて、嬉しかったこと”につながる。
「幼いときに父を亡くしているので、僕にとって父は、残された写真や映画の中の俳優というイメージがあったんですね。ところが、19歳で撮影所に通うようになると、父のことをご存じの方々が、父の人間味があるエピソードの数々を聞かせてくださったんです」
スタッフたちと飲みに行ったとき。
控室の扉を開けたら、サングラスとマスクで変装した佐田が外出しようとしていて、「その方が目立ちますよ」とみんなで笑った話など。
「父の、なんというか、肌感みたいなものが、彼らの口を介して伝わってきて、すごく嬉しかった。だから、人間としての小津安二郎の、例えば女の人が大好きだったとか(笑)、そういうこともみなさんに伝えられたらいいかな、と。あまり失礼のないように。でも、僕が死んであちらの世界で小津先生にお会いしたら、すごく叱られるかもしれませんが(笑)」