自分の身に起きるリアルタイムな変化
ーードラマやマンガなどでは普遍的に取り扱われる、大きなテーマですよね。
ガビン:その意味では「自分の身に起きるリアルタイムな変化」という事実は、思春期も老いもあまり変わらないと思うし、老いもコンテンツにしてもいいんじゃないかなって。
ひうら:確かに。そういう変化を、ガビンさんは淡々と見つめていますよね。だから、自身の老いを発信しているのは育児日記に近い感じを受けました。
ガビン:育児と同じで、過ぎ去ると忘れちゃうんですよね。僕も老眼で字がボケて見えにくくなってるけど、最初に「……見えない。これが老眼か!」と感じたときの衝撃は、もう忘れてる。自分なりの対策だったり、関わり方ができるようになって、日常になっているから。でも、その驚きや記憶を文字に残しておけば、「こんなこともあったね」と振り返れるから、その発見の気持ちを忘れないよう書き留めておこうと。
ひうら:日記や写真で子どもの成長を振り返る感じですよね。
ガビン:だから自分育児日記という感じです。ただ、育児日記だと子どものできることが増えていくけど、こちらはできないことが増えていくという感じですが(笑)。
ひうら:わかります。一昨年に父親を自宅で看取ったんですが、喋りにくくなったり、動きにくくなったりする姿を見て、「老いていくことって、育つ過程を逆再生するようなものなのかな」と思いましたね。
ガビン:年齢的に親の介護を考えざるを得ないと思うんですが、ひうらさんはご自宅で介護されたんですか。
ひうら:そうです。うちの父は10年ぐらいがんを患っていて、入退院を繰り返していたんだけど、比較的元気だったんですね。ただ、それも難しくなったときに、最後は自宅に帰りたいということで、私の兄弟三人とそれぞれのパートナー、そして孫を総動員して、自宅で介護したんですよ。2か月足らずだったので、うまくいったという部分はあったと思いますね。これがもっと長引いていたら、こういう風には話せなかったかも知れない。
ガビン:僕の父親は施設に入ってるんですけど、姉が父を施設に入れることに対して、すごく葛藤を感じていたんですね。「親を捨てるのか」みたいに感じてしまったんだと思う。でも、やっぱり施設にお願いしたことで、姉は超ハッピーな人生を送れている。だから世の中に色んな選択肢を受け入れる土壌を、もっと作っていいのかなと思いますね。
(つづく)

ひうらさとる
漫画家。1966年大阪府生まれ。1984年『あなたと朝まで』でデビュー。2004年に連載開始した『ホタルノヒカリ』が大ヒットし、ドラマや映画にと展開。最新作品は『西園寺さんは家事をしない』。旅にまつわるエッセイ本『58歳、旅の湯かげん いいかげん』(扶桑社)も好評。

伊藤ガビン(いとう・がびん)
編集者/京都精華大学メディア表現学部教授
1963年 神奈川県生まれ。学生時代に(株)アスキーの発行するパソコン誌LOGiNにライター/編集者として参加する。1993年にボストーク社を仲間たちと起業。編集的手法を使い、書籍、雑誌のほか、映像、webサイト、広告キャンペーンのディレクション、展覧会のプロデュース、ゲーム制作などを行う。またデザインチームNNNNYをいすたえこなどと組織し、デザインや映像ディレクションなどを行う。主な仕事に「あたらしいたましい」MV(□□□)のディレクション、Redbull Music Academy 2014のPRキャンペーンのクリエイティブディレクションなどがある。また個人としては、201年9あいちトリエンナーレや、2021年東京ビエンナーレなどにインスタレーション作品を発表するなど、現代美術家としても活動。編著書に、『魔窟ちゃん訪問』(アスペクト)、『パラッパラッパー公式ガイドブック』(双葉社)など。現在は京都に在住し、京都精華大学の「メディア表現学部」で新しい表現について、研究・指導している。近年のテーマに自身の「老い」があり、国立長寿医療研究センター『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』の編集ディレクション、日本科学未来館の常設展示「老いパーク」に関わるなど活動範囲を広げている。今春、単著『はじめての老い』(Pヴァイン)を上梓。