「若いほうが素晴らしい」という価値観に違和感
ガビン:老いの本って、「美しく老いる」「いつまでも若々しく!」みたいなテーマが多いじゃないですか。
ひうら:そうですね。
ガビン:でも、それって若いほうが、美しいほうが、元気なほうがいいという価値観が根底にあると思うんですよね。それを男女ともに内面化してしまって、年を取っても「若いほうが素晴らしい」のような価値観に陥ったり。だけど、そういった考え方を再生産したくないという気持ちは、老いのエッセイを書く動機としてありました。
ーーまた、社会的な価値観も急速に、グローバルに変化しています。そういった変化はどう考えられていますか?
ひうら:マンガや出版の世界もコンプライアンスを重視しないといけないので、いつもビビってます。子どもが15歳なので「この表現は君の世代からはどう思う?大丈夫かな」と聞いたりしてますね。「だめに決まってんじゃん!」「そうなの!?」とか(笑)。
ガビン:リアルタイムなチェッカーが近くにいるのは大きいですね。
ひうら:その判断は感覚的な部分でもあるから、10代が近くにいるのはありがたいですよ。「盗んだバイクで走り出す? アホか! 」とかバッサリ切り捨てるんで(笑)。
ーーああいった表現に普通に嫌悪感を抱く若い人が増えているという話もありますね。
ひうら:だから、私も以前に書いたマンガを電子書籍化するときも、大筋は変わらないけど、細かいセリフや言い回しは表現を変える場合もありますね。時代背景や文脈を考えずに、そのコマだけ切り取られる場合もあるので。
ガビン:僕も長めの文章とかは、妻にチェックして貰ってるし、これからは投稿する前にChatGPTを通すと思いますね。酔って書いたりするので、いつかやらかす気がしますが(笑)。
ーーそれは老いじゃなくてアルコールの問題ですね(笑)。
(つづく)

ひうらさとる
漫画家。1966年大阪府生まれ。1984年『あなたと朝まで』でデビュー。2004年に連載開始した『ホタルノヒカリ』が大ヒットし、ドラマや映画にと展開。最新作品は『西園寺さんは家事をしない』。旅にまつわるエッセイ本『58歳、旅の湯かげん いいかげん』(扶桑社)も好評。

伊藤ガビン(いとう・がびん)
編集者/京都精華大学メディア表現学部教授
1963年 神奈川県生まれ。学生時代に(株)アスキーの発行するパソコン誌LOGiNにライター/編集者として参加する。1993年にボストーク社を仲間たちと起業。編集的手法を使い、書籍、雑誌のほか、映像、webサイト、広告キャンペーンのディレクション、展覧会のプロデュース、ゲーム制作などを行う。またデザインチームNNNNYをいすたえこなどと組織し、デザインや映像ディレクションなどを行う。主な仕事に「あたらしいたましい」MV(□□□)のディレクション、Redbull Music Academy 2014のPRキャンペーンのクリエイティブディレクションなどがある。また個人としては、201年9あいちトリエンナーレや、2021年東京ビエンナーレなどにインスタレーション作品を発表するなど、現代美術家としても活動。編著書に、『魔窟ちゃん訪問』(アスペクト)、『パラッパラッパー公式ガイドブック』(双葉社)など。現在は京都に在住し、京都精華大学の「メディア表現学部」で新しい表現について、研究・指導している。近年のテーマに自身の「老い」があり、国立長寿医療研究センター『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック』の編集ディレクション、日本科学未来館の常設展示「老いパーク」に関わるなど活動範囲を広げている。今春、単著『はじめての老い』(Pヴァイン)を上梓。