教科書的な英会話とネイティブ発音の違い「“おはよう、あん?”みたいに…」

──やはり大変でしたか?

「ただ英語を喋ればいいのではなく、ヴェルマらしい粗っぽい英語にならないといけなかったんです。“Hello”とか“Good morning”ひとつとっても、直訳の“おはようございます”という感じではなく、ネイティブに “おはよう、あん?”みたいに聞こえるように……そうしないと『シカゴ』の世界観が出せませんから」

──たしかに、日本語でも教科書的な挨拶と現実の会話では全く異なります。こうした表現が出せるようになるまでどれくらいの時間を費やしましたか?

「アウトドア派で、お休みはよく外に行くのですが、この時ばかりは家に籠って猛練習しました。“翻訳アプリがちゃんと認識して反応するまで練習しましょう”と言われたんですけど、これが意外と反応してくれないんです(笑)。初日までに間に合うかな?と不安で不安で、セリフひとつで1日が終わるのも当たり前でした」

2015年、演劇の聖地・ブロードウェイでの1枚 写真/本人提供

 こうして本場のキャストと共演できた舞台では、ブロードウェイ版でヴェルマ役のアムラ=フェイ・ライトさんと役替わりでヴェルマを演じた。

「アムラさんのヴェルマも、舞台袖から見ていました。演出の方が“アメリカ人のヴェルマ・ケリーにならなくていい。アジア人として演じてください”と私のお芝居も肯定してくださって。日本らしい繊細なところも大切にして、私なりのヴェルマでいいんだと背中を押してくださいました」

 もう一つ、退団後の彼女を支えたのが学業だ。高卒認定資格を得た後、放送大学で心理学を専攻、無事卒業した。

「高卒資格を取ることは、中学を卒業して宝塚音楽学校に入学した時の父との約束でした。予備校に通って、久しぶりに教科書を開きましたね。社会経験はあるから現代社会は解けるんですが、数学も国語も英語も高校生のように勉強していきました」