「やっぱり拾われた子なんだ……」

大学生になった紅葉は、メコン川が流れるタイに旅行に行き、自分にそっくりなタイ人に遭遇したという。

「ホテルのメイドさんだったんですけど、自分が鏡に映っていると思うくらいそっくりで! 本当にメコン川で拾われたんじゃないかと思ってみたものの、私のパスポートは日本のものだし、いやいや、世界中の大使館の人と仲よくなっちゃう母のことだから、パスポートくらいどうにでもなるんじゃないかと思ったり(笑)」

 極めつけが、結婚前に受けたブライダルチェック。それまでO型だと思っていた血液型がA型だということが判明した。

「母がA型なんだから私がA型でも問題ないんですけど、ああ、やっぱり拾われた子なんだ……と思いましたね、そのときは」

 だから、初の小説を執筆するなかで、母親との共通点をたくさん発見できたことが、本当に嬉しかったと顔をほころばせる。

「母は原稿用紙にペンで書く作家でした。最初はインクにペン先をつけるモンブランの万年筆を使っていたのだけれど、書くスピードが早いからまどろっこしいとカートリッジタイプの万年筆に変え、それでもかすれるからと、最後はサインペンで書いていたんです」

 これまでエッセイなどを書いてきた紅葉もまた、原稿用紙にペン派だった。

「今回も万年筆で書き始めたものの、やっぱり書くスピードにインクが追いつかなくて、『ああ、母が言っていたのはこのことか!』と。アレコレ試した末に、私はフリクションの一番太い1.0㎜に落ち着きました」

山村紅葉 撮影/冨田望