本木が驚いた黒沢清監督の指示『殿様っぽいのはやめてください』
──武士なのに人質を殺さず、逃げることを恥じないという?
黒沢「“武士道”みたいなものは、実は江戸時代以降に作られた価値観で、戦国時代にはまだそこまではっきりとしていなかったとは言われていますが、まぁ、それでも“武士道”にアンチを突きつけた男ですよね。『そんなものに従う必要はない』と斬って捨てた。その勇気を持てたのは素晴らしいと思いますね」
本木「史実的には逃げたのではなく、自分が別の城に移り、戦いをそこに集中させ、その間に有岡城の婦女子を逃がすという策だったという説もあります。とはいえ、揺れ動くじゃないですか、村重は。原作にも『人の心の綾は難しきもの』という表現がありますが、村重は家臣たちを諭しながら、同時に自分のことを嘲っているような。そんな村重を演じながら、私自身も迷いましたが、それが人間本来の姿なのかも、と」
──監督から演技についての指示は?
本木「それが、そもそも『この解釈でよろしいですか?』と尋ねても決めつけが嫌なのか、答えてくださらない」
黒沢「そうでしたっけ(笑)」
本木「そうですよ! 監督は『主人公を最悪のところにまで追い詰めて、そこから解放するという流れが好き』とおっしゃっているんですが、役者に対しても多分にそういうところがおありのようで……。今回はクランクイン前に本読みがあったんです。私は大河ドラマの経験もありで、つい時代劇らしいセリフまわしになるわけですが、監督が『本木さん、ちょっとその、殿様っぽいのはやめてください』って」
黒沢「え、そんなこと言いました!?」
本木「おっしゃいました! 『もっと本木さんの自然な声で、かつ言葉の意味を大事にしてください』と。決めすぎずの時代劇というのは難しかったけれど、新鮮な努力をしてみました」