黒沢清「これはまずい、と思いました」
──おいくつくらいのときですか?
黒沢「30代前半くらいでしたね。スタッフのほとんどは年上のベテラン。そこで若造が監督をやるんだから、なかなかのプレッシャーでした。あるドラマを撮っているとき、ぼくの判断が甘くてすごく撮影が押してしまったことがありました。もう夜中になろうとしているのに、まだ撮り終わらない。そうしたら突然、スタジオの隅でカメラマンたちが、何やら相談しはじめたんです」
──怖いですね……。
黒沢「はい、これはまずい、と思いました。しばらくすると、ぼくより20歳は年上だと思われる、一番怖そうなカメラマンさんが僕めがけてやってくるんです。ああもうこれは叱られる……と覚悟したら『監督、大変申し訳ありませんが、これ以上遅くなると帰れなくなるスタッフもいるので、今日はここまでとさせてください』って、帽子を取って頭を下げるんです」
──お若い黒沢監督は、何とおっしゃったんですか?
黒沢「なんかもう恐縮しちゃって『もちろんです、いやいや、ほんと、僕のせいですみません』なんて、アタフタするやら申し訳ないやら……。大汗をかきながら思ったんです。映像の世界では監督に全責任があるんだ、と。監督が全てを背負っているから、スタッフも俳優も指示に従ってくれる。それが映画の世界なんだということに、このとき初めて気づいたというわけで……」
──以降、現場での仕切り方に変化はありましたか?
黒沢「はい。みんなが僕がやりたいことに従ってくれるからこそ、責任を持って指示を出さなくてはならないし、スムーズに進行させなくてはならないと肝に銘じました」