奇妙な体験
太平洋往復の冒険ヨット成功は2021年、65歳の記念行事でした。もう5年も経過しましたね。その8年前、最初の挑戦のときには全盲のヒロさんと2人乗りで出発したのですが、6日目に3頭のマッコウクジラの襲撃で船が破壊されてしまいました。救命ボートで1日漂って奇跡的に生還したのです。それでも凝りもせずに再挑戦したのは、この航海を成功させないことには人生に収拾がつかないと思っていたからでした。
太平洋を一人で横断すると言うと、危険なのではと心配されますが、遭難死亡した人というのは実はほとんどいません。アメリカからの帰りは貿易風の影響でさらに安全なんですね。外洋で荒れても、ハッチを閉めて2日間くらい激震に耐えていれば、そのうち晴れてくるのです。問題は一人でその異次元の恐怖に耐えられるかどうか、ということです。
奇妙な体験といえば、べた凪で物音ひとつしない日に、なぜか船底からガンガンという異音がすることがありました。後日分かったのですが、あれはクジラがキール(船底)にぶつかってくる音だったのですね。さらには帆走している真横に、船と同サイズの12メートルほどのクジラが泳いでいることもある。ホエールウォッチングなんてのんきなものではありません。あの大きな塊が船にぶつかってきたら壊されるでしょう。日本近海にはクジラが多いのです。幕末の黒船だって「捕鯨の補給に開港してくれ」でしたから。
冒険の危険度よりも、体調のほうが怖いというのが正直なところです。数年前に盲腸の除去はしましたが、外洋で虫垂炎になったら終わりでしょう。脳や心筋のことも気になります。最近は肩を脱臼したり、スノーボードで転倒して頸椎損傷を負ったり、腰痛もある。5年前の太平洋挑戦時はコロナの真っ最中でもありました。