2004年からの自衛隊イラク派遣で初代隊長を務め、「ヒゲの隊長」の愛称で親しまれた佐藤正久氏。国会議員に転身してからも安全保障・防衛分野を中心に第一線で活躍し、2026年8月31日には最新刊となる『日本人だけが知らない ドローンとAIの戦争論』(幻冬舎新書)を刊行した。ドローンやAIが戦略を一変させる新しい戦い方や世界の危機的状況に警鐘を鳴らす同書が話題を呼ぶ中、佐藤氏の人生最大の転機(CHANGE)の背景にはどんな思いがあったのか。瞬時の判断を求められる極限の現場で培われたリーダー論と、現在の日本に欠けている安全保障のリアルに迫った。【第1回/全3回】

「ヒゲの隊長」佐藤正久氏 撮影/有坂政晴

――イラク復興支援の先遣隊長として現地へ行かれた当時の状況を教えてください。

 カンボジア、ゴラン高原に続く3度目の海外派遣でしたが、イラク派遣はそれまでの国連PKOとは全く異なる「日本からの直接派遣」で、現地の危険度もケタ違いでした。直前には盟友だった外務省の奥克彦参事官が凶弾に倒れたこともあり、国内の世論は派遣反対に大きく傾いていましたね。

 当時の小泉政権としては「とりあえず先遣隊は出すけども、本隊を出すかどうかは先遣隊の情報待って決める」という建前だったんです。ほぼ何も決まっていない状態で、宿営地の場所も「お前たちが行って決めろ」という状況。事前の調査も調整も十分でない中、隊員の命を守りながら復興支援もやらなければならないわけですから、私は隊員たちに「これは史上最大のいい加減な作戦だ」と言っていました。

――当時からヒゲがトレードマークですが、自衛隊はヒゲを伸ばしていいのですか?

 自衛隊の規定では顎ヒゲは禁止ですが、口ヒゲは認められています。顎ヒゲがあると、防護マスクを身に着けた時に密着度を保てないんですよ。

 ただ、中東のイスラム社会において、ヒゲは「大人の頼れる男性」の象徴なんです。「郷に入りては郷に従え」ですから、イラクに行く時に伸ばしました。向こうは一夫多妻制で、あぶれた独身の男たちがたくさんいます。日本人は若く見られがちなので、ヒゲがないと目をつけられて拉致される危険もありました。

 さらに、現地には大事な約束をする時にお互いのヒゲを触り合う文化があります。アラブ社会には「IBM(インシャラー:神の御心のままに、ブクラ:明日、マレーシュ:気にするな)」という、約束にルーズな風潮があるんですね。「明日持ってくる」と言って持ってこない業者に対し、「絶対に約束を守らせる」という決死の交渉の武器としてもヒゲは役立ちました。