『日日是好日』では助監督に!印象に残る樹木希林さんの車

――ご縁ですね。

「それで“面白かったです”とその場で手伝いをしたりして、そういうことが24歳のときにあって、それはそれで終わったんですけど、その3年後に、そのときのプロデューサーから電話が来たんです。“ドライバーを探してるんだけど”って。それで『光』という映画で、初めて映画制作の現場に呼んでいただいたんです」

――そうなんですね! 井浦新さんと永山瑛太さんの共演作ですね。さらに続けて大森監督の『日日是好日』で、今度は助監督で入られています。

「ハーベストフィルムという映画の制作会社があって、大森監督とよく仕事をしていました。僕はその事務所に呼ばれてなくても、なんとなく平日行ってみるという生活をしていました」

――すごい。では細い縁をちゃんと太くして自分で引き寄せているわけですね。ところで『日日是好日』には樹木希林さんも出演してらっしゃいましたが、お話はされましたか? どんな方だったといった印象はありますか?

「その時、僕はサードと言われる一番下の助監督だったんですけど、樹木さんとは本当に業務的な会話しかしていないと思います。ただ本当に真摯な方だったという印象があるのと、同時に緊張感がありました。周囲も樹木さんがいらっしゃるといい意味でピリっとするんです。背筋が伸びる感じ。それから現場にすごくかっこいい車でいらっしゃっていたのを覚えています。ちょっと車種は忘れしてしまったんですが、可愛らしい感じじゃなくて、かっこいいスタイルの車に乗られてました」

――その後、濱口監督の現場などにも参加し、昨年の12月にはご自身の監督作『義父養父』が劇場公開されました。監督をしたいという気持ちはどの辺からあったのでしょう。

「何かを作ってみたいという気持ちはもともとありました。それが映画を撮れるかもしれない、撮ってみたいと具体的に思えるようになったのは、『偶然と想像』で濱口監督の現場に入ったときだと思います。僕が今まで経験していた現場に比べて、スタッフも出演者もすごく少なくて、たぶん予算も少なくて。こういうミニマムな体制でも映画を撮ることができるんだなと。僕は学生時代に自主映画を撮ったりした経験がなかったので、そういったことを知ったのはかなり新鮮だったんです。もちろん濱口監督の手腕が大きいと思いますが、ちゃんと面白い映画が、こうした規模で作れるんだと経験したのが大きいです」

――現在36歳、映画業界に入られてからまだ10年経っていません。その中で、焼き肉屋さんで大森監督に話しかけられてからドライバーとして映画制作の現場に入り、濱口監督の映画の主演男優としてヴェネツィア国際映画祭でデイミアン・チャゼル監督からトロフィーを受け取り、昨年末は自分の監督作を映画館で上映。CHANGEの連続ですが、大美賀さんからは、運をきちんと引き込んでいる印象を受けます。

「楽しい方に行くようにはしている気がします。自分の意思でどうするというよりは、楽しそうな方に話があったら、そっちに行っているのかなと思います」

 “楽しい方に行く”。運を引き寄せてCHANGEし続ける大美賀さんからの、いいアドバイスを聞くことができた。

大美賀均(おおみか・ひとし)
1988年生まれ。桑沢デザイン研究所卒。助監督として大森立嗣監督『日日是好日』、エドモンド・ヨウ監督『ムーンライト・シャドウ』等に参加し、濱口竜介監督の『偶然と想像』では制作を担当する。2023年には、自身が初監督した中編『義父養父』が公開された。

●作品情報
映画『悪は存在しない』
企画・監督・脚本・編集:濱口竜介
企画・音楽:石橋英子
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁 ほか
(C) 2023 NEOPA / Fictive
配給:Incline 配給協力:コピアポア・フィルム
4月26日(金)より全国順次公開