人相を生かして悪役俳優になったことも
スター漫談家を真っすぐ見据えた下積み時代だったが、同時期、なぜか俳優事務所に所属したこともあった。「元暴力団員の社会復帰支援」を標榜とする、悪役俳優事務所「高倉組」だ。
「見た目もこんなだし、芸人としておもしろい出方ができればいいなと思って。でも、映画『土竜の唄』と『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)にエキストラで出たくらいで、4か月で辞めちゃったんですよ。その理由が、事務所のみなさんで花見をしたときにあるんですが……」
悪役俳優15人ほどで、都内某所の公園の桜の下で酒を酌み交わした日のことだった。
「どこまで剃り込みが入っているのわからないくらい、激しい剃り込みの入ったパンチパーマの人たちと"ドラえもんの道具でなにがほしい?”という話をしたり、もうわけがわからない、異次元みたいな空間やったんです。
で、“みんなで銭湯に行こう”となって。脱衣所でみんなの裸を見たら、僕ともうひとりの俳優さん以外、全員入れ墨が入っていたんです。その瞬間“ヤバい! 悪役ちゃうやん! 悪やん!”と思って、というのは言いすぎですが(笑)、僕がやりたいことと事務所の方向性が違い過ぎて、ずっとおったら迷惑になるんちゃうかなと思って、その花見の日に辞めることを伝えました」
早々に辞める街裏さんに対し、高倉組の社長は「めちゃくちゃいい人」だった。帰路につく車に乗り込もうとしていたとき、社長から紙切れを放られた。開くと、「後ろを見るな。前だけ見とけ」と書いてあったという。そうしてまたお笑い1本に戻り、劇場とバイトの往復の日々に舞い戻った。
当時、いわゆる“地下”で切磋琢磨していた芸人たちといま、地上波で共演することもある。そういうときは、「なんだか照れくさい」気持ちになるという。
「出会いは浅草時代とは少し時期はズレますが、モグライダーやランジャタイ、錦鯉さんとか。自分よりも先に上にいった人たちやし、僕は右も左もわからないから身を預けています。
ただ、ちょっとは“できる俺”を見せたいというプライドみたいなのもあって、でもうまいことできへんし、そういうののせめぎ合いですね。背中を追いかけてとりあえずここまで来れた嬉しさとか、劇場で一緒にやっていたメンツとカメラを向けられている感じは……いろんな感情がぐちゃぐちゃと入り混じっています」
現在、いくつもの地上波出演が控えつつ、独演会も抜かりなく開催する街裏さんは、変わらずずっと「お笑いが好き」という情熱だけでどんな舞台にも立っている。
街裏ぴんく(まちうら・ぴんく)
1985年2月6日生まれ、大阪府出身。学生時代に漫才コンビを組んだのち、2007年からピン芸人として活動。2017年8月『JUNK爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)の第二回地下芸人まつりで優勝。2022年2月、『Be―1グランプリ』で優勝し、芸歴制限が撤廃となった『第22回R―1グランプリ2024』(フジテレビ系)で優勝を果たした。5月に東京と大阪にて第十七回 街裏ぴんく漫談独演会「一人」を開催。
■公演情報
澤部渡(スカート)×街裏ぴんく『VALETUDO QUATRO 2024』
・名古屋公演:名古屋クラブクアトロにて7月24日(水)19時開演
・大阪公演:梅田クラブクアトロにて7月23日(火)19時開演
・東京公演:渋谷クラブクアトロにて8月5日(月)19時開演
チケットは5月11日(土)より各チケットプレイガイドで一般発売開始
前売4,500円(1ドリンク要オーダー)