テレビと舞台とのバランスが取れなくなった
――そんなWAHAHA本舗とともに来た40年間で、ピンチだと感じたときはありましたか?
「テレビの力と言いましたけど、それこそ、自分が芸能活動をやっているなかで、テレビと舞台とのバランスが取れなくなったときですね」
――人気者になって個人として忙しくなったゆえのピンチ。
「舞台もやると決めていたんだけど、テレビが忙しくなって、稽古時間も少なくなった。私たちは自分の場面は基本的に自分で考えていくので、その時間も取れなくて、疲れて自分の中で消化しきれないまま舞台に出ていたんです。テレビでも舞台でもおもしろいと思われたいというプライドというか、見栄もあるんだけど、どうしても忙しさに負けてしまって頭が働かなかったりして。そんな状態で舞台に立っている自分が本当に嫌でした」
――結局、そのときは。
「1回テレビに集中して、落ち着いたら舞台に戻ろうかなと一瞬考えたことがあるんです。“舞台をちょっと休もうかな”と」
――そうなんですね。
「そんなときにちょうど新宿の小さな箱で若手がやっていて、たまたま公演を観に行ける時間ができたんです。それで2階から観ていたら、本当に不器用ながらも、お客さんに笑ってもらおうと一生懸命になっている姿があって。私、感動しちゃって、涙が止まらなかった。“何のために、舞台に立っているのか。原点を忘れていたな。私、逃げてた。負けちゃダメだ”と思ったんです」
――若手の姿に感化された。
「終わって楽屋に行って“みんな、すごくよかったよー!”と感動を伝えたら、喰ちゃんが“みんな、久本が戻ってきましたよ”と」
――おお、それは。
「喰始には、私の心が分かってたんですよね。迷ってる心。悩んでる心を。そして、私が“負けちゃダメだ”と原点を思い出したことも」
――いい関係ですね。
「それで、テレビが忙しいからとか、そういうことじゃない。私はテレビも舞台も“やると決めたんだからやるんだ!”と気合を入れ直しました。自分の中でのエネルギーの使い方が全然違うので、両方とも大好きだし、自分の中でバランスが取れるので、これからも両方やっていきたいと思っています。なんにせよ、足腰が動いて元気でないとできないので、健康第一に生涯現役で。みなさんに喜んでいただけるように、エンタメの世界で生き続けたいと思います」
仲間とともに、久本さんはこれからも“エンタメ”の世界を突き進む。
久本雅美(ひさもと・まさみ)
1958年7月9日生まれ、大阪府大阪市出身。劇団ヴォードヴィルショーを経て1984年に同劇団員だった柴田理恵や佐藤正宏、演出家の喰始らとWAHAHA本舗を設立。昨年、40周年を迎えた。85年のトーク・コントバラエティ番組『今夜は最高!』への出演をきっかけに舞台のみならず、バラエティ番組を中心にタレントとしても一気に人気を獲得していった。テレビではタレント、MCの印象が強いが、WAHAHA本舗以外も松竹新喜劇への定期的な出演など、演劇分野でも活躍している。最新主演舞台『花嫁 〜娘からの花束〜』では名プロデューサーの石井ふく子と初タッグ。ホームドラマに挑戦している。
●作品情報
松竹創業百三十周年『花嫁 ~娘からの花束~』
作:向田邦子
演出:石井ふく子
出演:久本雅美、羽場裕一、小林綾子、丹羽貞仁、上脇結友、瀬戸摩純、石原舞子
製作:松竹株式会社
公式サイト: https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/mitsukoshi_2506/