人生の大きな転機は片岡家に養子に入れていただいたこと
歌舞伎の舞台はもちろんのこと、数多くの映像作品で存在感を見せ、『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』では謎の支配者ムオムの声を演じる。幅広い活躍を見せる片岡愛之助さんにとっての「CHANGE」をうかがうと、「役者としての転機は『半沢直樹』だと思いますけど、人生の転機というと…」と、10代の頃の出来事を語ってくださった。
「子どもの頃から歌舞伎が好きで、歌舞伎に携わって生きていきたいと僕は思っていたんですね。それで、9歳の頃から千代丸という名前で歌舞伎をしていたんですけれども、貪欲に、例えば“あの主役、俺はやりたいなー”みたいなことは全くなかったんですよ。しかも、そんなにセリフも多くないですけれども、先輩方から毎日駄目出しがあるわけで。ひと言のセリフでもこんなに駄目出しをもらうってことは、あんな主役やったらもう大変すぎてできないだろうなと思って、やりたいとも思いませんでした(笑)。でも、歌舞伎が好きだったから歌舞伎そのものはやっていきたいなという思いで続けていた、という感じだったんです。
だから、“千代丸”の頃は「その他大勢」の役ですよね。いわゆるアンサンブル。後ろにずっと座って、“ござりまする~”というような役。そういう役で舞台に出ていたんですけど、19歳で“愛之助”という名前をいただくときに、“養子に来ないか”と言われまして、片岡家に養子に入れていただいたんです。そこが「CHANGE」でした。
それまでは、役名はないわけです。でも、愛之助になると、“何たら何某”という役名をいただけるようなる。それまでは主役の方、それぞれ演じられている方の後ろに座って、皆さんの芝居を邪魔しないように、でも、書割じゃないから消えてもいけない。そういう邪魔にならない芝居をずっと教え込まれていたのに、愛之助になった途端、“お客様にアピールしてください”と言われる。いや、そんなことやったことないから…とそれは本当に苦労しました」

立場の変化を頭ではわかっていても、体に染みついたものはなかなか抜けなかったという。
「襲名となると、豪華な方が出てくださるわけですよ。僕はそのとき女方と立役両方やったんですけど、女方のときは、澤村藤十郎のおじさまとうちの父(二世片岡秀太郎)と一緒に3人並んで出るんですけど、大先輩じゃないですか。“一列に並んでください”って言われて座るんですけど、どうしてもちょっと下がるんですよ、数センチぐらい。同じ位置に座っているつもりなんですけど、気がついたらちょっと下がってるんですよね。
たぶん何も知らない人が突然歌舞伎の中に入って、そこ座ってください、って言われたら“わかりました”って言って座れると思うんですけど、子どもの頃から知っているので、本当に数センチなんですけど前に出られない。しばらくそんな感じでしたね」