「好きなことをやりなさい。あなたの人生なんだから」19歳の尾上松也を救った恩師の言葉
『八つ墓村』でまったく新しい金田一像を見事に提示してくれた松也さん。自身の役者人生の始まりは早く、5歳の時に『伽羅先代萩』の鶴千代役で初舞台を踏んでいる。それからキャリアを重ねてきた中で、大きなターニングポイントとなったのは18、19歳の頃だったという。
──歌舞伎界で、ご自身の進むべき道に葛藤した時期があったそうだが。
「当時の僕はまだまだ未熟でした。僕の家は歌舞伎界の名門の御曹司というわけではなく、むしろ父(六代目 尾上松助)が芝居好きで入ったところから始まっている家系です。
同世代の仲間たちが次々と良いお役をもらって舞台に立ち続ける中、『自分は歌舞伎以外のジャンルにも挑戦して名前を売っていかないと、真ん中に立ってお芝居をさせてもらえる機会は巡って来ないだろう』という強烈な焦りがありました。 映像作品や外部の舞台にも挑戦したいと思い、父に相談した上で、僕の恩師でもある七代目尾上菊五郎さんにも相談にうかがったんです」
──まだ何ひとつ分かっていない若造が、本業である歌舞伎の修行を差し置いて、外の世界に飛び出したいと直訴しに行くようなものだからだ。
「そうなんです。でも、菊五郎さんは叱るどころか、こう仰ってくださったんです。『好きなことをやりなさい。あなたの人生なんだから、あなたが後悔しないようにやるべきだ』と。 それ以来、新しいことに挑戦するかどうか迷った時は、『今、一歩踏み出さなかったら後悔するかどうか』を基準にするようになりました。後悔するくらいなら当たって砕けろ。砕けたとしても『やったけどダメだった』と納得できる。でも、やらなかったら『あの時挑戦していれば成功したかもしれないのに』と一生引きずりますよね。この言葉は今でも胸に刻まれていて、何をするにも僕の背中を強く押してくれる大切な宝物です」
その相談から間もなくして、松也さんが二十歳の時に父親が他界した。
「大きな後ろ盾を失い、さらに厳しい岐路に立たされた時、あの言葉を思い出して奮い立ちました。勇気を出して歌舞伎の自主公演を企画したり、自ら映像のオーディションを受けに行ったり。周囲からの反対の声があっても、『自分の人生だから後悔しないように』という気持ちで進んできました。もしあの時、歌舞伎以外の仕事に積極的に挑戦していなかったら、今回の『八つ墓村』の金田一役には絶対につながっていなかったでしょうし、歌舞伎座で主演を任せていただける機会もなかったと思います。あの時、勇気を出して相談しに行って本当に良かったです」
次回は、異端児として道を切り拓いてきた松也さんが挑む「新作歌舞伎」への情熱と、400年の伝統を受け継ぐ者としての“焦り”に迫っていく。
▪︎作品情報
映画『八つ墓村』
出演:尾上松也 奥 智哉 堀田真由 佐野岳 小野塚勇人 永瀬莉子 中村莟玉 笹野鈴々音 小籔千豊 中島亜梨沙 川瀬陽太 今野浩喜 渋川清彦 髙嶋政伸 高島礼子 滝藤賢一
原作:横溝正史「八つ墓村 金田一耕助ファイル1」(角川文庫/KADOKAWA刊)
脚本:尾ヶ井慎太郎 清水崇
監督:清水崇
配給:松竹 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
Ⓒ2026「八つ墓村」製作委員会
ⒸYokomizo Seishi/KADOKAWA
2026年9月18日(金)全国ロードショー