監督の「放置」と、実力派キャストたちとの硬派なセッション

 緊迫した法廷劇や濃密な人間ドラマを包み込んだ現場だったが、その舵を取った『空飛ぶタイヤ』『シャイロックの子供たち』などで知られる名匠・本木克英監督の演出アプローチは、内野にとって意外なものだったという。

「本木監督はね、驚くほど僕のことを『放置』するんですよ(笑)。松本さんには『もっとチーママ風に、妖艶に揺さぶって』とか細かくディレクションされているのに、僕のところには全然来ない。『大丈夫ですか、監督!もっと僕にも演出してくださいよ!』って不安になって聞きに行ったくらいです」

 しかし、その「放置」こそが、本木監督から内野への最高の賛辞であり、巨匠ならではの美学だった。

「本木監督は『釣りバカ日誌』シリーズなどを手掛けてこられた松竹映画の伝統を背負う方。役者が自分の足で立ち、現場で生み出す生の感情やアイデアを解き放ったほうが、絶対に映画は面白くなるという揺るぎない確信を持っているんです。

 だから、あえて枠にはめずに僕を自由に泳がせてくれた。最初は不安で仕方がなかったんですが、試写で完成した作品を観たとき、特に裁判シーンの重厚な緊張感とテンポ感の見事さに息を呑みました。『参りました、監督!』と脱帽しましたね」

内野聖陽 撮影/河村正和

 現場には、個性豊かな実力派キャスト陣が集結した。藤堂の逮捕後も潔白を信じて支え続ける同業の友人社長・君塚を演じた北村一輝をはじめ、石丸幹二、竜星涼、藤本隆宏ら最強の陣容だ。

「大阪出身の北村さんは、コテコテの関西弁を自由自在に操っていて、大阪弁に必死だった僕からすると『ちくしょー、余裕かましやがって!』と羨ましかったですけど(笑)。

 でも北村さんは、本当につむじから爪先まで温かい方で、撮影初日から緊張せず自然体でいられる空気を一瞬で作ってくれた。

 本当は撮影後にみんなでミナミの街に飲みに行きたかったんですけど、僕らは大阪弁の特訓で部屋に缶詰だったから我慢しました。誰一人として妥協せず、全員が作品に命を吹き込んでいた。事実を元にした、かなり硬派な社会派娯楽作品じゃないかと思います」

 名匠や豪華キャストとの火花散るセッションを経て、唯一無二の表現を磨き続ける内野聖陽。

 次回は、30年以上の俳優人生を大きく「チェンジ」させた転機作と、そこで出会った巨星たちから受け継いだバトン、そして50代後半を迎えた今だからこそ辿り着いた「芝居の境地」を明かす!

【映画『負けへんで』作品紹介】    
2019年に大阪の不動産業者社長山岸氏が巻き込まれた実際の冤罪事件を山岸氏本人が綴った文春文庫のノンフィクションを基に映画化。検察特捜部の捏造捜査により逮捕され、248日間にわたり不当勾留された男・藤堂繁(内野聖陽)が、最強弁護団とともに完全無罪を勝ち取る逆襲エンターテインメント。監督:本木克英。共演:松本若菜、北村一輝、竜星涼、石丸幹二ほか。2026年11月13日(金)全国ロードショー。