「いつか自分の手で新作を作れ」熱い激励が生んだ新作歌舞伎『刀剣乱舞』
「この作品は中村獅童さんが企画された新作歌舞伎です。獅童さんはアニメ版でもガブの声を担当されていて、歌舞伎でもご自身でガブを演じられました。当時、世間的にはまだ全然名前が知られていなかった僕を、W主演とも言えるメイ役に大抜擢してくださったんです。その時、獅童さんから『お前もいつか、自分の企画で“尾上松也がこれを作ったんだ”と胸を張れるような新作を、ひとつでも良いから作るべきだ』と熱く激励していただきました」
その言葉が大きな実を結んだのが、2023年に上演された新作歌舞伎『刀剣乱舞』だ。名だたる日本刀を擬人化した大ヒットゲームを題材にした本作で、松也さんは主演を務めただけでなく、自身初となる「演出」も手掛けた。
「獅童さんのあの言葉があったからこそ、自分の中で『いつか絶対に新作歌舞伎をプロデュースするぞ』というモチベーションを燃やし続けることができたのだと思います」
──アニメやゲームといった現代カルチャーと融合する「新作歌舞伎」を、松也さんが先陣を切って作り続ける意義はどこにあるのだろうか。
「最近よく『歌舞伎ってアニメやゲームを取り入れていて新しいね』と言っていただきます。『刀剣乱舞』だけでなく、『ルパン三世』や『ファイナルファンタジー』などもありますからね。ですが実は、歌舞伎とはもともとそういう演劇なんです。例えば『仮名手本忠臣蔵』は当時の最新の時事ネタですし、『曾根崎心中』も世間で心中事件が流行っていたのでお芝居に取り入れた。要するに、歌舞伎は常にその時代のトレンドやスキャンダルを貪欲に取り込んで進化してきた大衆演劇なんです。だからこそ400年間も続いてきました。そう考えると、現代の僕らが今流行っているアニメやゲームを取り入れるのは、奇をてらっているわけではなく、歌舞伎にとって“極めて真っ当な伝統の継承”なんです」
──極端な言い方をすれば、面白ければ「何でもあり」の精神なのだと。
「その通りです。歌舞伎には『こうでなければいけない』という絶対的なルールはありません。ツケ(役者がポーズを決める際などに板を打ち鳴らす効果音)が必ずしも入るわけではないですし、音楽がない演目もたくさんあります。現代劇のように普通の言葉でしゃべる演目や、宮藤官九郎さんが作・演出を手掛けたゾンビものの『大江戸りびんぐでっど』という作品もあるくらいです。極論を言えば、演じている僕ら役者が『これは歌舞伎だ!』と信じて舞台に立てば、それは歌舞伎になる。それがこの演劇の懐の深さなんです」