「昔、さんざんお金を使ったので取り返そうと思って(笑)」

 頭の中で、登場人物たち……祇園の老舗置屋の大女将の「楓」も、彼女の孫「茜」も、上方歌舞伎の名門俳優の「十八代目 山村貴衛門」も、元銀座のトップホステス「有紗」も、生き生きと喋り、泣き、笑い、紅葉はそれを、

 「ただ文字にして書き写していただけ」

 なのだという。

「だから、最初の原稿はカギカッコばっかりでした(笑)。担当編集者から『これでは、誰が喋っているのかわかりません』と指摘されて、地の文を入れていったという形です」

 なにしろ終戦直後から現代にまたがる物語だけに、時系列を整理するのが大変だったことに加え、歌舞伎界、祇園の世界、ホストクラブの世界など、さまざまな場面が交錯するため、取材も行った。

「少し前の時代の祇園のことは、90歳近い元舞妓さんからお話を聞いたり。ホストクラブについては……昔、さんざんお金を使ったので取り返そうと思って(笑)」

 取材ではメモはいっさい取らずに、自分の頭と身体を使って、染みこませるように記憶した。

「これも、母と同じやり方なんですよ」

 そう言って、紅葉はにっこりと笑った。

[作品情報] 
『祇園の秘密 血のすり替え』
発売日:2026年6月17日
著者:山村紅葉
価格:1,980円(税込)
出版社:双葉社
公式サイト https://www.futabasha.co.jp/book/97845752490020000000