限界を迎えた“コップの水があふれた日”…北海道での肉体労働からスピード復活した独自のリセット術

これまでに出版された武論尊原作漫画の初版本 撮影/有坂政晴

 とはいえ、常に順風満帆だったわけではない。その旺盛な意欲と責任感ゆえに仕事を抱え込みすぎ、「コップから水があふれる状態」になって限界を迎えた時期もあったという。

「連載を全部ストップしてもらって、北海道の牧場で馬の世話をしていました。情報を全部カットして、馬の世話と草刈り、ただひたすらに肉体労働をしていたんです」

 しかし、枯渇したエネルギーは意外なほど早く満ちた。半年休む予定がわずか1ヶ月で活力を取り戻し、3ヶ月目には自ら「もう書かせてください」と編集部に直訴していた。この経験で自分の限界ラインをはっきりと知った武論尊さんは、以降、多忙な日々を「小博打の競馬と、サイゼリヤでのワイン」というささやかな楽しみでリセットしながら、スランプとは無縁の作家生活を送っている。

「本当はヒモになりたかった」自衛隊時代の本宮ひろ志との運命的な出会いと、往生際の悪さが生んだ大逆転劇

「武論尊100時間漫画塾」へと続く廊下 撮影/有坂政晴

 もし漫画の世界に入っていなければどうなっていたか。「ちょっと口が上手いから、なにか詐欺的なことをやって、塀の向こう側に落ちていたと思います。本当はおねえさんのヒモになりたかったんですけどね」と豪快に笑い飛ばす。そんな規格外の人生を変えたのは、自衛隊時代に出会った本宮ひろ志さんの存在だった。

「本宮先生が漫画家になっていなかったら、この世界との縁は絶対になかった。ただ、漫画家や原作者ってしぶといんですよ。まわりから枯れているって言われても、本人は枯れていないって言い張りますから。往生際が悪いんです」

 運命の出会いを経て漫画界に足を踏み入れた武論尊さんは、持ち前の「俗っぽい欲」と「往生際の悪さ」を武器に、今もなお頂点に立ち続けている。

つづく