不妊治療と重なったがん

 当時、私は不妊治療中でした。38歳で今の夫と結婚して、生理があるんだから妊娠も問題ないと思っていたら、卵子にも“老化”があるという。慌てて卵子の状態を調べてもらったら、すぐに不妊治療が始まりました。タイミング法では着床するけど、なかなか妊娠の継続ができない。

 3回ぐらい化学流産を繰り返した後、人工受精、体外受精、顕微鏡受精とステップを上げながら定期的にクリニックへ通うなか、不正出血したため受精卵移植が中止になった日のことです。ぽっかり空き時間ができた時、区から乳がん検診の無料クーポンが届いていたことを思い出し、病院に行くと、本当に軽い触診で「右、しこり」と言われました。

「サッと触っただけで何がわかるんだよ」ってヤブ医者かと思ったけど、それは私が現実を直視したくないだけ。検査の結果しこりは悪性で、触診から1か月も経たないうちに私は「がん患者」になっていました。

 しこりは大きかったのに、不妊治療中だったことが“そういうこともあるよね”という思い込みを加速させていました。女性は生理前に胸が張るとか、ホルモンによって体調や身体に少し変化があるものですから、胸の異変にも鈍くなっていたんです。

 診断は、「乳がんステージ2A」。ただ、それが何の指標なのかがわからない。確定した時は、暗い冬の海に1人だけポンって投げられたようでした。自分がどうなっていくのかが怖くて、どっちに進んでいけばいいのかわからなくて。

 先生が病気や治療についていろいろ説明してくれるんだけど、初めて聞く言葉ばかりだし、まるでお経を聞いているようでした。自分のことなのに、何を言われているかわからない。ぼーっとしちゃって、「先生のおすすめは何ですか」と聞くのが精一杯で、すると先生は「全摘」だという。残すと再発の可能性があるためです。夫も全摘に賛成でした。がんの可能性が減るほうがいい、と。

だいたひかる 撮影/河村正和