再発率と天秤にかけた不妊治療

 正出血で移植が延期になっていた凍結受精卵が1個だけ残っていて、1年に1回保存の延長を確認するお知らせが来るんです。延長には当時、年7万円ほどの費用がかかり、毎年払っていました。ただ抗がん剤は子宮も攻撃するし、年齢的に生理も止まるだろうと言われて、もう子供は無理だなと諦めていました。というか、考えないようにしていました。私は妊娠に耐えうる体じゃないんだと。

 でもある時、先生が「40歳ぐらいまでに発症する若年性乳がんは、遺伝性が高い。遺伝性の場合、もう片方の胸と子宮もがんになりやすい。保険適用だから、一度遺伝子検査を受けてみますか」と言うんです。ちょうどアンジェリーナジョニーが遺伝子検査を受けて、乳がんや卵巣がんの発症リスクがあるとして13年に両乳房切除、16年に卵巣・卵管の摘出手術を受けたことを公表した頃でした。私も遺伝性だったら、再発や転移に怯えて暮らすより、リスクがある部位は取っちゃおうと思って調べたら、「若年性乳がん」ではありませんでした。

 子宮を取るという選択肢が消えたら、受精卵も残っている。だったら、凍結され、冷たいところにいる卵をあたたかいところへ戻してあげたいと思いました。受精卵の中では大きく育っていたものだったけれど、これまでの経緯からしても妊娠、さらにそれが継続する可能性は限りなく低いかもしれない。でも、気が済みたかったんです。せめて私が卵の“お墓”になりたかった。

 主治医の先生に相談したら、不妊治療を再開するなら抗がん剤治療は一旦休止する必要があり、その場合再発率が3、40パーセント上がるという話をされました。夫は「命が助かっただけでもいいじゃん、もう2人で仲良く暮らしていこうよ」という反応でしたが、私は寿命が縮まってもでも、一縷の希望にかけようと思いました。死を覚悟してもやってみたいことなんて、なかなかない。先生は、「たった一度の人生だから、応援します」と言ってくれました。

(つづく)