「等身大」の演技はしない――極限状態の妄想と1か月半の“外界遮断”
劇中の藤堂は、社員を愛し、豪快に人生を謳歌するカリスマ経営者だが、内野自身も日頃から「勝ちに行く気迫がないと、成功するものも成功しない」という強い信念を持って仕事に挑んでいる。その生き様は藤堂と重なるようにも見えるが、内野自身は「等身大」という言葉をキッパリと否定する。
「どんな役を演じるときも、僕の中に『等身大』という感覚はないんです。等身大で演じてしまったら、表現としての引っ掛かりも力強さもなくなってしまう気がするから。
役者としてやるべきことは、自分の中にある微細な感情や経験の欠片を見つけ出し、そこに振り幅をつけて何倍にも増幅させて表現すること。ただ、どれだけダイナミックに振り幅をつけてキャラクターを作ったとしても、最終的な着地の仕方だけはウソっぽくならないように、極めて自然体でありたいという志を持っています。そこが役を演じる際の一番の醍醐味なんですよね」
その役作りが極限まで試されたのが、藤堂が逮捕され、拘置所に長期収監される後半のシーンだ。前半のパワフルな姿から一転、不当な人質司法によって心身ともに痩せ細り、精神が壊れそうになる「拘禁病」の恐怖と戦う姿は、観る者の胸を激しく締め付ける。
「何日間も外界と遮断され、大切な人にも会えず、自分が命懸けで守ってきた会社が崩壊していく。そんな絶望的な暗闇の中で、人間は恐ろしい妄想に取り憑かれていくんです。僕自身も現場ではさまざまな悪い妄想を頭の中に思い浮かべ、極限まで自分を追い込んで撮影に臨みました。だから精神的にも本当に辛かった」
さらに内野を苦しめたのが、コテコテの大阪弁の壁だった。
「1か月半に及ぶ撮影期間中、京都のホテルと撮影所を往復するだけの毎日でした。撮影が終わってホテルに帰ってくると、すぐ部屋にこもって、大阪弁の指導音源を何度も何度も聞き返して特訓する。外界との接触を完全に絶ち、ひたすら言葉と役に向き合う日々。それはまるで、僕自身が『シャバに出られない』不当勾留を体感しているかのようでした。
でも、その過酷で閉塞感のある環境があったからこそ、藤堂が暗闇の中で燃やし続けた『負けへんで』という心の叫びが、僕の身体を通してリアルに立ち現れてくれたところもあります」
1か月半の密室状態で自分を追い込み、過酷な拘留シーンと大阪弁の激闘を潜り抜けた内野聖陽。
次回は、劇中で火花を散らした松本若菜演じる美しき検事との取調室での緊迫した心理戦、ネイティブ関西弁で場をさらった北村一輝との友情裏話、そして「放置」の美学を貫いた巨匠・本木克英監督との密な攻防に迫る!
2019年に大阪の不動産業者社長山岸氏が巻き込まれた実際の冤罪事件を山岸氏本人が綴った文春文庫のノンフィクションを基に映画化。検察特捜部の捏造捜査により逮捕され、248日間にわたり不当勾留された男・藤堂繁(内野聖陽)が、最強弁護団とともに完全無罪を勝ち取る逆襲エンターテインメント。監督:本木克英。共演:松本若菜、北村一輝、竜星涼、石丸幹二ほか。2026年11月13日(金)全国ロードショー。