「1話しか考えていない」真っ新な状態から大きな風呂敷を広げ、極限まで“嘘”をつき通す圧倒的な創作術
長年原作者として第一線を走り続けてきたが、もし絵の才能があったとしても「漫画を描くなんて、あんなきつい仕事ない。絶対自分に向いていない」と断言する。創作の醍醐味は、真っ新な状態から「1話目」のアイデアをひねり出している瞬間にこそあるのだ。
「俺は1話しか考えていないんです。まず1話目を面白く仕上げることしか考えていないんで、最初にでかい風呂敷を広げちゃうんですよ。塾生にも言っています、まずは思い切り風呂敷を広げちゃえって。大きい風呂敷を広げなきゃ、誰が面白いと思うんだってぐらいに嘘をつかなきゃダメだって」
硬派なシリアス作品の印象が強いが、「基本、俺はコメディ作家だと思っていて、一番得意なのもコメディなんです」と自己評価する底知れぬ人間力。
「おまえかっこ悪いなー」売れて有頂天だった自分を救った恩師・ちばあきおの教えと、79歳が抱く終わらない野望
そんな武論尊さんが、自身のキャリアにおいて最も影響を受けた恩師として名前を挙げるのが、ちばあきおさんだ。
「『ドーベルマン刑事』が売れていたときに、一緒に寿司を食べに行ったんです。会計のとき、僕が払いますよって偉そうに言ったら、おまえかっこ悪いなー、こんなことしていたら潰れるぞって言われて。シュンってなって気持ちをあらためたんです。売れて有頂天になっていた当時、ちゃんと注意してくれた。本当にありがたかったですね」
人との出会いが道を開き、人を育てることを誰よりも知っている。だからこそ、彼は故郷の佐久に「門」を作り続けているのだ。インタビューの最後にこれからの野望を尋ねると、衰えを知らないエネルギーに満ちた言葉が返ってきた。
「もう1本と言わず、書くもの全部でヒットを飛ばす。まわりに、まだこいつ死んでねえ、終わってねえぞって言わせるのが、一番の夢ですね」
「往生際が悪い」と自ら笑う79歳の原作者は、今日も大きな風呂敷を広げ、佐久の若き才能たちにプロへの扉を開き続けている。
つづく