「喜久雄がだんだんと、自分の父親とも重なって見えてくるような」

 また、本作に参加する音楽家の原 摩利彦さんは、美雨さんが司会を務めるNHK『⽇曜美術館』の新テーマソングを共作したり、映画『国宝』の主題歌『Luminance feat.井口理』でタッグを組んだりした間柄。日本映画史を塗り替えた大ヒット作の主題歌で、美雨さんは作詞を託された。

「映画『国宝』の作詞は、私もライブやイベントなどの仕事が入っていて、気ぜわしい中での制作でした。ただ、李相日監督とオンラインで打ち合わせなどをしながら、どこに行くにも頭の中で歌詞を考えているような感じで、短期間の中で練り上げていくことができました。
 作詞に集中するうちに、主人公の喜久雄の人生にぐっと入り込んでいきましたが、そうすると喜久雄がだんだんと、自分の父親とも重なって見えてくるような不思議な感覚もあって……。映画の中の喜久雄を最後に包んであげたい、幸せになったらいいなという気持ちが、自分の父親への気持ちとも重なったとき、堰(せき)を切ったようにすらすらと書けたんです」

坂本美雨 撮影/有坂政晴

 

 説明するまでもないことだが、美雨さんの父・坂本龍一氏は、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のメンバーとして世界にセンセーションを巻き起こした。ソロの音楽家としても活動し、日本人で初めて米・アカデミー賞作品賞に輝くなど数々の功績を挙げた偉人。

 現在、大阪で複合現実(MR)による作品展『RYUICHI SAKAMOTO & TIN DRUM KAGAMI+』が開催中(※)。この展示は、英国、台北、シンガポール、オーストラリア、イタリア、香港など世界各地で上演されており、 2023年の他界後もアートや音楽の枠を超えて多大な影響を与え続けている。 美雨さんは、『国宝』の主題歌を通して、亡き父と娘としての親密な対話をしたのかもしれない……そんな気がした。
※坂本美雨さんも、上演前のナレーションを担当している。